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コラム

「私」を主語にしたコミュニケーション術

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なぜいつも喧嘩になるのか

家族やパートナーとの間で喧嘩や口論が繰り返されているとき、もしくは、一方が相手を非難し一方は黙り込んで建設的な話し合いにならないとき、二人の間には次のような言葉が飛び交っているのではないでしょうか。(語尾はその人との関係性や方言などに合わせてしっくりくる言い回しに変えてみてください)

・なんで~ばかりするの!
・なんで~してくれないんだ!
・ちょっとくらい~したらどうなの!
・そろそろやめたらどうなの!
・また~してる!
・いつになったら~するんだ!
・たまには~したらどうだ!
・~する(しない)なんておかしいでしょ!
・~する(しない)なんてヘンでしょ!
・~する(しない)なんて、間違ってるよ!
・~する(しない)なんて、ありえないでしょ!
・~しないと~になるよ!
・そんなことしているから~になるんじゃないの!?
・お前はまったく分かっていない!
・どれだけ~すれば気が済むの!


どれも共通する点は、相手の言動や態度の良し悪しを、直接的あるいは遠回しに「私」が決めつけて判断しているという点です。これらの文は、英語圏だとどこかに「あなたは」や「あなたが」という主語を挿入することができるためYouメッセージと言われています。(日本語では主語を省いてコミュニケーションをすることが多いので、ちょっと不自然な感じは否めませんが。)

また、次のような言い回しも葛藤的な関係が生じやすいと言えます。

・世間では~が当たり前。
・~するのが常識でしょ。
・そんなことでは社会でやっていけないよ。


私の考えを「世の中の人」や「常識」に代弁させる言い方ですのでTheyメッセージOurメッセージと命名することもできるかもしれません。

もし自分が「言われる方」の立場だとすれば、上記のように人から自分の行動や態度や考え方をダメ出しされたり、正されそうになると、否定、反発、言い訳、無視をしたくなるのではないでしょうか。少なくとも、あまり良い気分ではないのは確かだと思います。

ちなみに、これらの言い方は、相手の言動を評価する一方で、「私の気持ち」は言葉にされていません。多くの場合、私の期待や感情は口調やトーン、言外の意味を通じてのみ表現されています。でも、それは言葉にせずとも自分の気持ちを汲み取ってほしいという幼児的な願望の表れといえるかもしれません。

Iメッセージとは?

多くの心理教育では、葛藤場面における建設的なコミュニケーション術として、「私」を主語にした言葉かけを推奨しています。これは、先述のYouメッセージに対してIメッセージともいわれます。文字通り、相手に何か伝えたいときに、I(私)を主語にするというものです。

【感情】
・(私は)~が心配、不安、悲しい、傷つく、辛い、苦しい

【考え】
・(私は)~と思う、~と思ってしまう、~と感じる

【願望や期待】
・(私は)~してほしい、~してくれるとありがたい、~してくれるとうれしい


こちらも日本語だと主語が省略されていることが多いので分かりづらいかもしれません。別の言葉で説明すると、これらは「私の気持ちを伝える言い方」ともいえます。「私」が「何」について「どう感じているか」を伝えるようにする言い方です。

ここでYouメッセージからIメッセージへの具体的な言いかえの例をみましょう。これらが唯一の正解というわけではありません。できれば、まずYouメッセージだけを見て、自分ならどのように言いかえるのかを考えてみてください。

YouメッセージIメッセージ
・何で、食べ終えた食器を流し台に持っていくことくらいできないの!?・食べ終わったら食器を流し台まで持って行ってくれると(私は)ありがたいんだけど
・そうやってすぐに嘘をつく!・ごめんだけど、あなたの言っていることは(私には)本当と思えないんだけど。
・今何時だと思ってるの!?遅くなるならなんで連絡をくれないの!?・連絡もなく帰るのが遅いと、何かあったのではないかと(私は)心配になる。連絡をくれると(私は)嬉しいんだけど。
・また飲んだだろう!?いったいどれだけ家族を悲しませれば気が済むんだ?・今度こそはやめられると期待していたから、正直(私は)がっかりしているし(私は)悲しい。
・私たちがどれだけ大変な思いをしたのか、まったく分かっていないのね。・私たちの大変さを、まったく理解していないように(私は)感じるんだけど。
・俺の事馬鹿にしているだろう!・そういうふうに言われると、俺は馬鹿にされてるように感じて傷つくんだけど。
・まったくいつになったら仕事を見つけるんだ!探す探すと言って全然、探していないじゃないか。・このままずっと仕事に就けなかったらと、父さんも母さんも心配なんだ。
・仕事を探しているように(私は)思えないんだけど。


このように、相手の言動や態度を決めつけて判断するのではなく、相手の行動や態度を自分がどう感じたのかについて伝えるようにします。

Iメッセージの利点

① 私の気持ちは事実であるため相手は否定しようがない
相手の言動の良し悪しを判断する言い方だと、その判断基準は私とあなたで違うわけですから、平行線の議論になってしまいます(たとえば「やってる!」「やっていない!」の水かけ論など)、一方、自分が相手に対して感じていることは紛れもない事実なので、相手は否定しようがありません

私「(私は)そういう風に言われると悲しいです」
相手「そんなはずはない」


とはふつうならないですよね。そのため、不毛な口論や喧嘩に陥りにくくなります。

② 私とあなたの境界線が明確化する。
-あなたの感じ方や考え方は私とは違う- 文字にすると当然のことのように感じますが、身近な人との関係においては、この前提が崩れてしまうことがあります。どんな親密な関係においても二人の気持ちが常にぴったりと一致することなどありえません。本来、別々の価値観をもっているにも関わらず、「同じように感じたり考えたりしているはずだ」と錯覚してしまうことで、二者関係における多くの問題が生じます(なぜ~してくれないのか。なぜ分かってくれないのか等)。私の気持ちを伝える努力を重ねることは、「あなたの感じ方は、私とは違う」との前提におのずと立ち返らせてくれます

強い感情を伝えるとき

腹が立つ、イライラする、不愉快、ムカつくなども「私の気持ち」を表す言葉ですが、これらの言葉を使うときはトーンが感情的にならないよう注意が必要です。「あんたを見てるとほんと腹が立つ!」のように、いくら自分の気持ちを伝える言葉でも、口調に相手を責めたり、挑発したり、さげすむようなニュアンスがあると、やはり口論に発展するのは免れないかもしれません。

相手に怒りを感じること自体が悪いと言っているわけではありません。むしろふだん怒りを表現しない人は、怒りを感じていることをきちんと伝えることが必要です。ただし、タイミングには注意しましょう。怒りマックスの時に伝えるのではなく、あえて少し落ち着いてから表現するのが良いでしょう。

また、頻繁に怒りが沸き起こるケースの中には、怒りが何か別の「弱い感情」を覆い隠している場合があります。たとえば心配、心細い、傷ついた、悲しい、さみしい、見捨てられ不安といった、「弱い感情」を感じたり認めたくないから怒りという「強い感情」で紛らせているのかもしれません。そういった場合、弱い感情の方を言語化することで、お互いの怒りがエスカレートしにくくなります。

分かってはいるけど言えない

「理屈はわかるが、いざ実践しようとすると言えない」という方もいます。それは、何らかの「恐れ」や「不安」が関係しているかもしれません。例えば次のようなことに心当たりはないでしょうか。

・自分の感情に気づくことへの恐れ
・自分の気持ちを認めることへの恐れ
・相手に受け止めてもらえないことへの恐れ
・相手に私の気持ちを評価されることへの恐れ
・自分の弱みを見せることへの恐れ
・相手に伝えたときに返ってくる(と想像している)反応への恐れ
・相手のコントロール欲求を手放すことへの恐れ


これらの恐れがあるならば、まずはそのことに「気づく」ということが重要です。もしこれらの恐れに気づいたのであれば、一度、紙に書きだしたり、ひとりで声に出してつぶやいてみましょう。「私には~という恐れがある」と。気づくこと、認めることがその恐れを克服する第一歩になります。

ちなみに私の気持ちを伝えたとき、相手が否定的な態度や反応を返してきたとしても、それは相手の問題です。相手の感情も考えも相手のもの。こちらが制御する問題でもないですし、こちらが罪悪感を抱く必要はありません。

まとめ

・相手との関係で不満やモヤモヤすることがあるとき、「私」が「あなた」に対して「どう感じるのか」を意識した表現(=Iメッセージ)を心がけましょう。
・強い感情を伝えるときはタイミングに注意しましょう。また、自分の中にある弱い感情(傷つき、心細さ、悲しさ、不安等)にも気づきを向けましょう。
・相手に自分の気持ちを伝えることがなかなかできない場合は、まず、自分の中にどのような恐れや不安があるのかを把握するようにしましょう。