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コラム

目を使ったトラウマ処理法~ブレインスポッティング~

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ブレインスポッティングとは

ブレインスポッティング(Brainspotting)は、トラウマPTSDなどに伴う「苦痛な記憶」を処理するための比較的新しい心理療法の一つです。デイビット・グランデ博士により開発されました。特定の視点(スポット)を利用して記憶にともなう苦痛を緩和することを目指します。比較的素早く、しかも徹底的にトラウマを処理することができるため注目されています。トラウマ記憶を詳細に話す必要がないのも大きな特徴のひとつです。

セッションでは何をやるの?

いくつかありますが、基本的な手続きのひとつを紹介します。

①アクティベーション
まず、トラウマ記憶を頭に思い浮かべます。すると、こころやからだに何か反応が起きるので、その強さを10段階で評価します。

②スポットの特定
次に、カウンセラーが指示棒をゆっくりと動かすので、それを目で追っていきます。すると、どこかに心身がより反応するポイント(スポット)があるので、それをカウンセラーと一緒に探していきます。心身の反応とは、「目が小刻みに震える」、「瞬きが増える」、「呼吸のリズムが変わる」、「表情が強張る」等です。また、主観的にもスポットにおいて「嫌な感じが強まる」等が体験されます(あまり感じられないこともありますが、その場合は客観的な反応や別の方法を用います)。

③処理
スポットが定まったら、そこをただじーっと見つめます。すると体験に変化が起こります。感覚が強くなることもあれば弱くなることもあります、感覚が感じられる場所が移動したり、感覚の質感が変わったり、新たなイメージや考えが沸き起こって来ることもあります。ここで大事なのは、何が起きても、それをどうにかしようとせずに、ただあるがままにして、観察し続けることです。変化が起きるまでの時間は人それぞれです。早ければ2~3分くらいで、長いと10~20分かけて変化が起きます。ときどき、セラピストがどのような体験をしているかを質問します。

④レモンを絞る
苦痛な感覚や感情が十分に下がったら、処理しきるためにふたたび苦痛な場面を思い浮かべます。そこで出てきた反応をスポットを見つめながらさらに観察していきます。このプロセスを最後の一滴までトラウマ記憶を処理しきるという意味で「レモンを絞る」と言います。

⑤終了
全体で30分から長いと80分ほど時間をかけます。苦痛が0になったら終了です。時間内に処理しきれないときは、次のセッションで続きを扱います。

どんな効果が期待できるの?

記憶に対する心身の反応が減っていくのが実感できます。記憶が薄くなる、ぼやける、モノクロになる、過去のことと感じられるようになると言った変化がしばしば起こります。私も実習で受けたのですが「記憶が遠くなる」感じがしました。またトラウマに伴う不快な症状や、感情の浮き沈み、過剰なおそれや緊張、苦手な人や場所の回避、フラッシュバックの改善が期待できるほか、スポーツや演劇、楽器演奏等のパフォーマンスの向上も報告されています。
ただし、全ての人に効果があるわけではありません。ある調査によると、8割~9割くらいのクライエントさんが何らかの効果を実感したようですが1~2割の方はまったく効果を感じなかったようです。
また、セッションの後、一時的に不快な症状が強くなったり、嫌な記憶が頻繁にわき起こることがあります。これは脳がトラウマ記憶を処理する過程における一時的な症状で、セッションを繰り返し受けることで緩和していきます。

なぜ効果があるの?

はっきりとしたことは分かっていません。しかし、視点の位置(スポット)がトラウマ記憶を保存している脳の領域とリンクしているのではないかと考えられています。トラウマ記憶を処理するにはその記憶と回避せずしっかりと向き合い「記憶自体は無害である」ことを体験する必要があります。カウンセリングという安心できる場において記憶を活性化させる領域に視点を固定することで、それが可能になるのではないかと考えられます。